月城まりあの手記

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人形が主人公のオリジナル短編小説

今日は、いつものSuper Dollfieの話題とはちょっと違う記事です。
実はこのたび、某友人に触発されて数年ぶりにオリジナル小説を書いてみました。
総文字数はおよそ2600文字の、短いお話です。
タイトルは「夏の温度」。

今回の主人公は、人間ではなく人形……そのモデルが、Super Dollfieなのです。
だから、SDカテゴリーでこの記事も書いています。
とある人形とオーナーのお話、ドールオーナーさんでもそうでない方にも、1人でも多くの方に楽しんで頂けたら幸いです。

追記に、本文を掲載しています。私の個人サイト「森羅万象 -All things in nature-」に掲載してあるものの転載です。読みやすいほうでお読み下さい。

小説について禁無断転載、お守り下さい。
コメント等からの感想、お待ちしております♪


夏の温度



暑い。とにかく、暑い。
8月も半ばの午前11時は、気温も湿度も上がりきっているのだろう。僕の少ない語彙力では、暑いという言葉しか出てこなかった。
オーナーなら、何と表現するだろうか。もっと詩的に、あるいはもっと露骨に、何とか言いそうだ。
ああ、この暑さが、僕の肌を焼くようにあの出来事も焼き尽くして無かった事にしてくれたら良いのに……。

そこまで思い巡らせたところで、僕の思考は不意に遮られた。本棚の上から窓の外を見やっていた僕の頭を、いつの間にか側に来ていたオーナーが柔らかく撫でてくれたのだ。
「相変わらずの残暑よね。参っちゃうわね、嘉月(かげつ)。」

少女のようなあどけなさを残すオーナーの声に、僕は一切の反応を返せない。それでもオーナーはまだ僕の頭を数度撫で、再び語りかけてきた。
「あなたには、生まれて初めての夏なのよね。こんなに蒸し暑いんじゃ、いくら人形のあなたでも堪んないわよね。もうちょっと涼しい場所があれば良かったんだけど……。」

それきりオーナーは黙って、頭を撫でる手も止めて、僕の隣で同じように窓の外を見た。僕は尚も何の反応も返せなかった。
応答することも、振り向くことも、表情を変えることも、何もかも、ウレタン樹脂製の人形である僕には出来ないから。
本来、人形なんてそんなもので、絶妙な無表情に人間達の感情を映すことで癒し和ます事こそが全てだ。
今の僕には、それだけしか僕自身には無いという現実が酷くもどかしい。
オーナーがこれまで僕に語り、僕を連れ出して伝えてくれた膨大な知識と感覚が、いつも僕の身体の中で外に飛び出さんばかりに巡り巡っている。それでも、僕は人形でしかない。

そこまで考えて、また僕の思考は中断された。オーナーが乾いた衣擦れの音を立てて立ち上がったからだ。
そしてまた、彼女の声が幾分高いところから降ってきた。
「さて、休憩終わり。引っ越しの準備の続きしなくちゃね。全く、引っ越しって面倒だわ。」
それからもう一度僕の頭を撫でると、オーナーは部屋を出て行った。遠くから、彼女を呼ぶ家族の声が聞こえる。彼らも荷造りの最中らしい。

僕は再び、この暑さにあの出来事を焼き尽くして無かった事にして欲しいと願った。
オーナーはこの秋、結婚というものをして住み慣れたこの家からも家族からも離れ、まるで知らない場所で一生過ごしていく事に決まったのだ。
僕は引き止めたかった。叫んでも、しがみついてでも却下させたかった。
今年の3月に生まれてオーナーの元へ来たばかりの僕にも、オーナーが家族とどれだけ仲良くて、この家を、この場所をどれだけ気に入っているかは良く分かった。
オーナーが恋人との結婚と引っ越しを決めたと皆の前で発表したあの日の夜、暗い部屋ですすり泣くオーナーのお母さんの声を聞いた。
この居間にオーナーのお父さんが独りで来て、グラス片手にちびちび飲む背がいつもより丸くて小さかったのも、ずっと見ていた。
翌朝には皆笑顔でオーナーを祝福したりからかったりして幸せそうにしてたけど、本当に幸せな事なら、僕が見聞きしたあの光景は何だったんだろう。
でも僕にはそれを問う声が出せない。問いを書き綴る事も出来ない。僕には、何もかもが無さ過ぎる。

「ふー、疲れた。また休憩。やっぱり、この居間が1番涼しいわ、嘉月。」
ドアの開く音と同時に、オーナーがまたやってきた。今度は両手に僕を軽々と抱き上げると近くの椅子へ座り、その膝の上に僕を座らせてくれた。
体温を持った肌に包まれる心地良さは、僕の大好きなものの1つだ。そしてオーナーは僕の首関節を少し調節して、僕が彼女の顔を見上げられるようにしてくれた。

「そういえば、嘉月。まだあなたにちゃんと話して無かったわね、新しい家族と新しい生活のこと。」
そう言って微笑むと、オーナーは僕の頭を撫でた。それからひとつ息を吐いて、彼女は僕にこんこんと話を聞かせてくれた。
これまで何度も話してきた恋人と、秋に結婚式を挙げる事、それとほぼ同時に彼の実家の近くに2人一緒に引っ越す事、
そこは彼が一生懸命働いて貯めた資金で買ってくれた新居だという事、僕と3人でいつも一緒に暮らせるように2人で部屋割りを考えた事……。
聞いていく程に、僕の中で知っていた事と初めて知った事とがせめぎ合って、あるものは結び合って、外に飛び出しそうな勢いで駆け巡り始めた。

「ふふ、あなたも楽しみにしてくれると良いのだけど……結婚って大きな変化だからね。もしかしたら、あなたは不安かしらね、嘉月。
考えてみれば、遠い京都の職人工房からここへ来て、2度目の大きな変化になるんだものね。でも心配いらないわ。あなたも一緒に幸せにするから。」
ひとしきり話し終えたオーナーは、そう言って僕のグラスアイを真っ直ぐ見つめ、僕の頬に静かに触れた。
オーナーの手は不思議だ。たったそれだけで、僕の中をどうしようもなくぐるぐるしていたものが静まった。
それから、笑えたら、あるいは泣けたらどんなにいいだろうという思考に穏やかに包まれた。
人間の喜怒哀楽を癒し和ませるのが僕達人形の仕事なのに……人間の手というものは、皆、これほどのものなのだろうか。

「それにしても、今日は本当に暑くて仕方ないわね。荷造りはもうちょっと涼しくなってから再開しようかな。
……来て、嘉月。皆と一緒にお昼ご飯にしましょ。準備するの、側で見ててね。」
僕がぼんやりと考えているうちに、オーナーはハンカチで顔の汗を押さえると、そう言って僕を抱き上げて立ち上がった。
この、オーナーと同じ身長160cmの目線になれるわずかな時間も、僕の大好きなものの1つだ。
普段の身長60cmの世界よりも遥かに広くてたくさんのものに囲まれた世界をみることができるから。
僕には実に何もなくて、知らない事もすごく多いけれど、オーナーに抱き上げてもらって眺める世界は、それをいつだって楽しみに変えてくれる。
オーナーの結婚も、引っ越しも、皆の涙も祝福も、いつか僕にも意味が分かる日が来るだろうか。
僕をキッチンカウンターの一角に座らせてくれているオーナーをグラスアイで見つめながら、僕は少し苦しくも甘酸っぱい思考を巡らせた。

=終=

※禁無断転載
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従来はRPGゲーマーblog、今はSuperDollfieドールオーナーblogです。球体関節やグラスアイのドール達の写真、ドール達との会話などの表現が苦手な方は閲覧をご遠慮下さい。
About me
ボークス製球体関節人形「スーパードルフィー(Super Dollfie)」が好きな初心者ドールオーナー。他社・海外ドールも興味はあるけれどまだまだ無知で恐縮です。
我が家には春歌(MSDG サクラ)、きよし(SD13B リンク)、ちか(幼SDG ちか)、幸彦(SDGrB F-30)の4人が居ます。

他にも、オンラインゲーム「マビノギ」が大好きというゲーマーでもあります。タルラークサーバにて暮らすようにプレイ中。家事の合間に農園や楽器演奏などをしてのんびり暮らしています。